理想を目指して 新たな品質工学の道

品質工学会の目指すところ,ビジョン30,大切にすること

大切にすること

 大切にすることには、品質工学の研究をする上で共有する基本的な姿勢を示します。品質工学会は、創始者である田口玄一博士の思いや考え、あるいはその考え方に共感し、品質工学に関する研究成果を交流し学問として確立したいとする協働した活動を行うために設立されました。設定した目指すところに行き着くための道を歩む上で田口玄一博士の思いや考え方を継承していくことが活動の基本と考え、大切にすることとして以下の8項目を定めました。
 

1.高い志で創意工夫し、目的思考で継続的に取り組みます。

 高い志とは、目指すところに示したように、より豊かで自由な社会を実現しようとする意志を表します。品質工学の適用領域はあらゆる領域になります。そこには、機能のばらつきによる品質間題が付随してきます。機能は、目的の中に含まれ、それぞれの企業や専門領域で独自に決定されます。特定の専門分野の機能性評価に対する回答を与えると同時に、他の分野でも同様の機能に使える汎用性のある評価測度を見出すことが品質工学の研究となります。
 
 人は有史以来「ものやサービス」を作り分けあってきました。作られた「ものやサービス」は、望まない不具合や欠陥などを生じ、そのために損失が生じ、消費者や使用者あるいは環境や社会に迷惑をかけてきました。その分、社会の生産性が低下するものと考えます。品質工学は、そのような損失は、機能が不完全だから生じると考えました。様々な「ものやサービス」を提供する前の研究・開発段階から、機能の完全さを測る測度を考案し、理想の機能に近い「ものやサービス」を開発し生産できるようにしようとしています。機能の完全性を測る測度が良いかどうかは、選択した目的に回答を与えるかどうかで判断されます。それは、個別開発において損失を最小化することを上位目的に置いて活動するという意味です。田口玄一博士は、この目的を完成するために1960年代から創意工夫を継続し、品質工学の確立のために活動をしてきました。その精神と取り組み方を大切にします。
 

2.機能性評価と最適化の考え、手法を開発します

 「ものやサービス」は人の生活を豊かにする働きを持ちます。このような目的に対する働きを機能と呼びます。産業革命以前から、人々は「ものやサービス」を統治するために質と量を測ることにより様々な工夫をしてきました。20世紀の中頃から大量生産の方式が考案され「もの」の生産性が飛躍的に拡大しました。量の拡大に比例し質が重要となってきました。その質は品質と呼ばれ二つ意味を持つことが理解されるようになりました。一つは、機能と外観・意匠などです。品質工学では、この品質を商品品質と呼んでいます。以前は品種と呼んでいたもので顧客や消費者が望んでいるものです。もう一つは、使い勝手が悪い、不良や欠陥、故障や公害などです。これらは顧客や消費者が望まない項目になります。品質工学では技術品質と呼んでいます。品質工学では、顧客や消費者が望む商品品質の理想の機能を想定し、望まない技術品質を測る評価尺度を提供しようとしています。
 
 1960年代頃より技術品質を改善する尺度の研究がなされました。それそれの分野で不良率、故障率、工程能力指数、欠陥率、収率・・・などの品質特性がありました。しかし、それらの品質特性による技術開発や設計では、品質改善を測る尺度としては、再現性や実験の効率の悪さなどが指摘されました。品質工学では、技術品質を出荷された製品の機能のばらつきと使用および弊害コスト、ただし、機能そのものによる損失は除く、としています。今までの研究で技術品質は、基本的には選択した手段の機能のばらつきから生じ、機能のばらつきを少なくすると付随して使用コスト、弊害コストも低減していくことを発見してきました。
 
 ばらつきを少なくすることは、 たやすいことも事実です。出力を絞ればばらつきは少なくなります。それでは目的機能を達成しません。重要なことは、顧客や消費者が望む理想の目的機能を基準として機能のばらつきを測ることです。品質工学が提唱するのは理想機能の状態を基準としたばらつきの無さであり、これを機能性と呼んでいます。それそれの目的機能に対して、機能性を測る測度を開発し利用することになります。
 
 さらに重要なことは、目的機能を達成するには、それを達成する手段を考案しなければなりません。「ものやサービス」を提供するには、必ず科学や経験で明らかにした原理を利用するのが一般的ですが、その手段は千差万別です。「もの」の提供は、目的機能を達成する手段の考案の歴史でもあると言えます。手段も機能を持ちます。目的機能に対する手段の機能を明らかにすることが、技術品質の開発・提供において重要となります。品質工学では、それを基本機能と呼びます。基本機能の理想状態を想定した機能性を測り、手段を目的機能に対して理想に近づける行為が、「ものやサービス」を開発し提供する提供者として最も重要と考えます。品質工学では、その機能性を客観化するためのSN比と呼ぶ考えを提唱し、それを客観化するための数理を提示してきました。機能性測度の開発が成功したかどうかは、機能性評価の測度が最適状態を予測できることを検証して、はじめて利用できるかどうかが判断されます。すなわち、品質工学で主張される
1)源流で使える機能性の評価方法の開発をする
2)主効果に交互作用を交絡させた直交表を用い、生産、市場などの下流条件の下で改善効果が再現するかどうかを検査する
3)損失関数により品質とコストのトレードオフを行う
ことを大切にしてきます。
 
 品質工学会の役割は、以上のように20世紀の中頃から用いられてきた品質特性という測度から、「ものやサービス」の働きの良さを測る機能性評価測度の利用への変革することです。より源流で機能性評価の測度を開発し提供する精密機能性測定法の開発時代が始まっています。「ものやサービス」の機能の良さ悪さを測るための計測法を進化させるという役割も担っていると考えて活動をします。
 

3.オリジナルな研究を実例で行います

 私たちは品質工学の研究開発集団でもあります。研究開発から得られた知識を構造化し世に問いたいと考えています。今までに、開発や生産の現場で問題や課題となった開発や設計についての合理的な機能性評価の考えや方法、それを使った最適化の方法の枠組みを提供してきました。品質工学会にとって重要なことは、その枠組み研究はそれを実例に適用し、その考えや手法が使えるということを検証・確認するところにあるということです。
 
 大切にすることの2.でも述べたように、目的を決め、目的機能を達成する手段を選択します。手段の選択は、科学で明らかになった法則を用いた専門工学が基礎となっています。機械工学や電子工学、化学工学、自動車工学などです。しかし、それらは、目的機能を達成する手段を示しているだけです。エンジンは燃料を供給し燃焼させます。その燃焼による膨張工ネルギーを機械的工ネルギーに変換する原理と法則を用います。ボイルとシャルルの法則などが基礎となります。現実にはそれらの法則どおりにはいかないのです。原理を用いても、摩擦や外部の空気、酸素濃度、冷却の度合いなど様々な環境や劣化因子が影響します。それらは、冷却損失や不完全燃焼などにより様々な損失を生み出します。それらの影響因子は理想の機能状態を壊すもので、手段が持つ基本機能が理想機能を持つように、提供者側は、創造的な設計や生産をしたいのです。
 
 手段はシステムを構成し、基本の機能は単純な法則かその組み合わせで構成されます。どのような手段を用い、どのような基本の機能を想定するかどうかは、個別担当者の役割となります。個別担当者は、開発や設計すべきテーマを持ちます。そのテーマは、技術テーマであろうが設計テーマであろうが個別の目的機能を持ち、それを達成する手段を持ちます。その手段が持つ機能も個別となります。それらのテーマで完成した技術や製品は、使用条件は時間も個別です。その結果、基本機能が理想から乱れることも、個別であります。
 
 基本機能の乱れを測るために、何を信号とし、何を出力とし、どのような関係が理想か、そして、どのような原因によって乱れるか、また、理想機能からの乱れをどのように考え客観化するかも個別となります。これらは実例でなければ分からないのです。一般論でなく、品質工学会は実例で研究することを基本とします。その上で、汎用性があり再現性がある機能性評価尺度とそれを用いた最適化の研究をします。それらの課題を解決する創造性が要求されるし、オリジナリティが要求されます。
 
 さらに、想定した基本機能が測定できないことも少なくはありません。この場合、基本機能を崩さないで、代替する基本機能を考えなければなりません。それには計測特性を変えるとか信号を工夫するなど、独創力が必要となります。そのような独創性を発揮したオリジナリティを大切にしていきます。
 

4.正しさの追究でなく、経済的な優劣で議論します。

 品質工学では、品質を損失と考えていますが、品質の改善の効果も最終的には損失で測ります。基本機能の機能性による改善も最終的には、損失になります。損失を構成する機能性も品質の構成要素となり機能性尺度は改善の効果を良くするのか悪くするのかで判断します。
 
 機能性評価の検討は実例を用いることを示しました。目的を決め、目的を達成する手段を選択します。選択する手段は限りがありません。その手段は科学で明らかにされた原理を採用し法則を利用します。しかし、その法則を適用して法則の理想どおりには働かないことも示しました。選択した手段が理想的に働くように手段を最適化する必要があります。つまり選択した手段を実例とし、その手段を品質工学の考えと手法で最適化した状態が再現できるたかどうかが判断の基準となります。実例での再現性の良否で成果を判断しますので、品質工学では普遍性や真理などの絶対的価値基準に照らし合わせて正しい正しくないということを追究しません。
 
 選択した手段が損失を低減でき、市場で優れた効果を発揮できるかどうかの良悪を追究します。損失を目的関数にして、それを達成する要素を最適化し、目的を達成するコストと経費を加えた総合損失の優劣を議論することを大切にしていきます。
 

5.成果を広く社会に発信し普及します

 品質を損失としてとらえ、それを達成する考えと手法を体系化し会員とシェアするとともに、公にしてきました。品質工学の最終成果は、目指すところで確認されますが、そのためにはより多くの実例で実施することにより成果がでます。その量と質を大切にしていきたいと思います。これからも適時、研究開発で得られた成果を、会の中に閉じ込めておいておくのでなく、私たちの活動を通じて世の中に知識を還元し、より多くの開発担当者やそれをマネジメントする管理者の方々に理解していただき実施していただきたいと考えます。そのために技術のレベルを会員相互に高めあい、広く社会に知らしめ、教育・訓練や助言・支援することを大切にします。
 

6.専門技術関発を支援します。

 品質工学の知識は実例で発現されます。その実例を扱う担当者は、多くの課題を抱えております。それは開発のプロセスにおける評価について品質工学の知識を有していない方が多いからだと考えております。
 
 創始者の田口博士は、数理統計を学んでおりましたがその実用を経験していく過程で、純粋に数学や統計学を学ぶだけでは身につかない「知恵」を積み重ねていきました。幾つかの経験からいつしか数理統計学の研究から、その意を技術に寄り添い生きていくことに置いて、技術改善のために記述統計学を用いた推計学を工夫してきました。始めは、推計学の中心的な手法である実験計画法を研究し改善、改良してきました。
 
 その活動と並行して、品質管理の研究を行い、他動制御の工程管理方式の開発を進めてきました。損失関数を用いた検査方式の設計法や工程の診断・調整方式の設計法などが開発されました。それらの経験を得て、品質が損失であることを発見し損失関数を中心とした品質工学を提唱し、その基本的考えや手法を次々考案し体系化しました。それら全てが専門技術者の課題を解決する知識です。品質工学では、直接専門家の持っている課題を解決できませんが、汎用的な課題の解決の考え、方法を与えることができます。専門技術者の課題が効率的に解けたときその成果が確認できます。顧客の視点に立って実例を扱う専門分野の担当者の活動を支援するということを大切にしていきます。
 

7.全体最適化の視点で研究します

 全体最適化の視点とは、視座の置き方により見え方が異なります。品質工学の全体最適化とは多面的であります。私たちは目指すところ示したように、品質工学の研究を通じて社会生産性の拡大に貢献することです。社会とは、それを構成する互いの関係性により複雑に生活を営むことであり、その集団を指します。「ものやサービス」も社会の中で生かされ価値が生じます。反面、品質問題が潜むことになります。
 
 全体最適化とは全体を一つのシステムと捉え、その中で「ものやサービス」がどのように影響され、影響するかという視点で考え、価値を最大化し、損害を最小化にするように考えることが全体最適化の視点となります。目的機能や理想機能を理解する上にも不可欠ですし、機能を乱すノイズの抽出などもこの社会的なシステムの中で考えなければなりません。それには品質項目による損失も社会に与える経済的な影響から導きだすことが必要です。全体最適化は社会システムの視点から考察したいのです。
 
 さらに、提供する「ものやサービス」も、材料、部品、ユニット、サブシステムなど構成されるシステムである場合が多いのです。材料一つにとっても、複数の素材の組み合わせや、その構造の構成が複雑で、システムを構成していると考えます。システムは一つ一つの要素の関係で日的機能を発揮します。構成要素の一つを最適化しても全体が良くなることになりません。研究する要素が、全体のシステムの中でどのように機能を発揮するのか、その影響も踏まえて最適化します。提供する「ものやサービス」の全体と部分との関係性をいつも考慮に入れて研究する視点を大切にします。
 
 さらに、「ものやサービス」を生み出し生産をする提供者も研究開発、設計・生産、管理など会社組織を構成するシステムと考えます。一部の改善では、組織全体の成果に直結するかどうかは分かりません。提供者側を機能面からとらえ部分の最適化が使用者側も含めた全体最適化に帰結するように考えることが全体最適化の視点となります。これらの全てが品質に関わり、損失を生み出します。全体から見て、最も損失の多いところから着手する点も全体最適化の視点です。
 
 品質工学はシステムに存在する損失を最小化する方向で研究をします。この視点が生産性向上のための不可欠なことと考えます
 

8.先行性、汎用性、再現性を確保し技術開発の効率を追究します。

 「ものやサービス」を作り出すには、技術が不可欠と考えます。いくら優秀な技術もやがては顧客や市場の変化、あるいは競業者の新しい技術に対応できなくなるため使えなくなるか、改良が必要となります。それは価値の発揮が飽和し、より豊かさの実感を幻滅させるか。品質による損害を出し続ける状態になります。「ものやサービス」の提供者は、技術開発を先行させ、いち早く顧客や消費者に「ものやサービス」を届け、新しい価値提供するか品質による社会損失を低減させることが必須条件となります。
 
 そのためには、技術開発を先行させておかなければなりませんが、着手が早くても完成までに時間が費やしてことも多く報告されています。技術開発の効率を阻害しているのは、担当者のアイデアが無いとのこととは考えていません。試行錯誤を繰り返し、結局は完成をさせています。ただ、問題点は、試行錯誤の方法にあると考えています。求めたいものは最適条件です。最適条件は、目的に対する解は一つきりありません。それ以外の条件は不要になります。
 
 求めたい状態は、試行錯誤で明らかにした条件が、下流で再現するかどうかを早く見極めることです。品質工学では、結果を乱す条件に対して、機能が乱れない条件を探す評価方法にあると考えています。下流の条件で機能が乱れないことを下流に出す前に評価することを大切にして考えと方法を追究していくことになります
 
 さらに、開発した技術が、その後に企画される「ものやサービス」の開発や生産により長く、より多くに用いられる汎用技術として開発することが技術開発の効率追究となります。これを実例で追究することになりますが、実例は個別解であり他では用いることができません。重要なことは基本機能に着目していることです。基本機能を上手く定義することができれば、他でもその機能性評価の方法が適用可能であると考えます。個別解で一つの機能性評価の測度が生まれたと考え、その個別解を他の専門分野の同類の基本機能に適用し、その汎用性を証明していく活動が全体の効率を上げると考えています。実例から汎用的な機能性評価法の枠組みを開発することが、もう一つの重要なところです。品質工学における技術開発の効率化は、専門領域における個別技術開発の効率化と、品質工学としての汎用的な機能性評価測度の研究と二重のテーマを同時並行的に行うことを大切にしたいと考えています。